JBL 305P MKIIとLSR310Sのレビュー(iLoud Micro Monitorとの比較も)

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東京都港区の5.5畳1Rから和歌山市内の3LDKへ引越した。
結構なボリュームで音楽を鳴らしても大丈夫な家を選んだので、これを機に、モニタースピーカーをiLoud Micro MonitorからJBL 305P MKIIに新調すると同時に、同じシリーズのLSR310Sというサブウーファーも導入していわゆる2.1ch環境へと移行した。

いままでの環境

ろくな写真が残ってなかったが都内に住んでた頃の環境はこんな感じ。
引っ越し直前の頃はMIDIキーボードがBehringer DeepMind12(アナログシンセ)になってたり、PCがGALLERIAのゲーミングノートになってたり、インターフェイスがRoland UR28Mになってたり、ベースが違うジャズベになってたりと相違点がちょこちょこある。
引っ越し直前の頃はMIDIキーボードがBehringer DeepMind12(アナログシンセ)になってたり、PCがGALLERIAのゲーミングノートになってたり、インターフェイスがRoland UR28Mになってたり、ベースが違うジャズベになってたりと相違点がちょこちょこある。
IK MultimediaのARC3で部屋の音響特性をキャプチャして補正をかけていたのだが、キャプチャを見る限り(そして耳で聴いてみても)この部屋の音響特性は最悪であった。
右画像を見てもらええばわかるように、補正なしだととにかくデコボコがひどい。いくらなんでもARC3に無理をさせ過ぎだ。
また、帯域的なことだけでなく、トランジェントや響き(反響や残響のような時間的特性?)にも色々と課題を感じていた。
素人なりに推察するに、以下のようなことが原因で上記の音響的課題が生じていたのだと思う。
  • 壁からの距離が近過ぎる
  • デスクに直置きしている
  • 食器類が変な共鳴をしている(デスクのすぐ後ろがキッチンになっていた)
  • 家のそばを通る第二京浜上の喧騒
  • スピーカーの能力的な限界
少なくとも上4つの課題は引っ越す以外に解決する方途がない。そして上4つの問題を先送りにしてスピーカーを買い替えても仕方がない。そういうわけで2年ほどは、スピーカーを新調するわけでもなく、ARC3でキャリブレーションしたり、Realphoneのようなプラグインを使ってヘッドフォンでスタジオ環境をシミュレートしたりして、なんとかやりくりしていた。
そして今回、割と伸び伸びと音を出せる住まいに引越したため、上記の課題を一気に、一段飛ばしで解決することにした。

JBL 305P MKIIにした理由

305PはJBL 3シリーズの最下位モデルで他に306Pと308Pがある。モデル名の数字がウーファーのサイズに対応しており、ツイーターなどは全モデル共通となっている(多分)。
Audio Science Review等の海外フォーラムに報告されている測定データなどを見る限り、305Pが下こそでないものの低域以外は割と真っ平ら(下のSPINORAMA参照)。なのに実売価格はペア3万円を余裕で切るという怪物級のコストパフォーマンス。
※SPINORAMAを知らない人向けに簡単に説明すれば(というか自分も原理的なことは何も理解していない)、(1)下2本を除く線がフラットなほど、(2)低域側の線がより左まで高さを保っているほど「よいスピーカー」である、と考えておけばよい。「よいスピーカー」とはとある研究グループが長年の統計調査の末たどり着いた「玄人だろうが素人だろうが、フラットな周波数特性をもったスピーカーを好む傾向がある」という結論に基づいた品質の判断である。
JBL 305P MKIIのSPINORAMA
JBL 305P MKIIのSPINORAMA
Audio Science Reviewで最もスコアの高いGenelec 8531BのSPINORAMA
Audio Science Reviewで最もスコアの高いGenelec 8531BのSPINORAMA
定番品のYAMAHA HS5
定番品のYAMAHA HS5
逆に上位機種がツイーターとウーファーとの物理的な距離が増えるせいかところどころディップ(帯域的な落ち込み)があるらしい。今回はサブウーファーと同時に導入することを前提としていたので、あまり低域側の性能には関心がなく、80hz以上がきれいに出てくれるならそれでいいかな、と思い上位機種は選択肢から除外した。あと引越しでキャッシュが枯渇していたので安価であればあるほど助かる、という事情もあった。
306PのSPINORAMA。1k~2kの間にディップがある。
306PのSPINORAMA。1k~2kの間にディップがある。
データだけで見ていても仕方がないので下の比較動画などで試聴もしてみたが、確かに前評判通り305Pがもっとも癖がないように感じられた(Youtubeの音質や測定状況もよくわからない動画で何がわかるのか、という話ではあるのだが)。
Video preview
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その他、前評判(や公式の宣伝文句)では独特なツイーターの形状によってスイートスポット(というか定位感)を広く保つことができる、とか、サブウーファーが同じシリーズ内でラインナップされているから2.1ch環境を構築するに当たって考えるべきことがそれほどなくて楽、みたいなことが言われており、それも購入の後押しになった。
他のスピーカーのとの比較動画は以下の通り。
Video preview
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LSR310Sを選んだ理由

特にサブウーファーについては詳しく調べていない。サブウーファーの導入自体がはじめてだったため、どう比較していいかもよくわからない。JBL 3シリーズとしてラインナップされていたLSR310Sがいいだろう、という適当な考えで購入した。

JBL305P MKIIとLSR310Sのレビュー

ARC3による測定結果

SPINORAMAではないが、ひとまずとくにルームアコースティックの調整を行っていない部屋でのARC3による測定結果はこちら。
グリーンが測定結果。オレンジが補正後。
グリーンが測定結果。オレンジが補正後。
60~70hz、100~300hzあたりは上のSPINORAMAにないデコボコなので、おそらく部屋の特性によるものだと思うが、LSR310Sを80hzでクロスオーバーしているのでもしかしたらその当たりにも原因があるのかもしれない。今後原因を特定して修正したい部分。
あとサブウーファーのボリュームはもっと絞ってもよさそうだ(絞ったあとの測定結果は、ルームアコースティックを改善したあとに載せるかも)。

ポイントレビュー

スイートスポットが広い

売り文句通り、音像定位を捉えられるリスニングポイント、すなわち「スイートスポット」が非常に広いように感じられた。バランスボールに座って、横に傾いたり、上下に跳ねてみたりしたが、どのポイントでも定位感への影響があまりない。比較のため、手持ちのiLoud Micro Monitorで同じことをしてみたが、少しでもリスニングポジションをズラすと定位が崩れてしまう。

音が「現前」する

LRの距離をとったことによるものかもしれないが、ボーカルやキックのようなセンターに置かれがちなパーツが、目の前に「現前」しているような感覚を得ることができる。
2つのスピーカーが鳴っている、というより、目の前に音が広がっているような感じ。スピってる表現になってしまうが、音が<いま・ここで=現に>在る、という感じ。
もちろんセンターの音だけでなく、上下、左右、前後、どの軸でも音の位置を確認できる。ドラムセットの生録音とか聴くとわかりやすいのかもしれない。
iLoud Micro Monitorでは、2つのスピーカーから鳴っていることが明確に知覚できてしまう(それが悪いことなのかどうかはよくわからない)。
一応、Google Jamboardで図示してみた(超低クオリティ)↓
305P&310Sの現前感。
305P&310Sの現前感。
iLoud Micro Monitorの音場イメージ
iLoud Micro Monitorの音場イメージ

ルームアコースティックの調整なしにサブウーファーを使うのは厳しい

LSR310Sの定格出力?を見て驚いたのだが、ピーク時は500Wも消費するらしい。エコじゃないにも程がある。流石に1/4とかそれ以下のボリュームしか出していないが、それでもそれなりのパワーで音を鳴らしているわけで、当然ながら部屋もガンガンに揺れる。
作業部屋は和室なのだが、ロー成分が豊富な曲だとふすまのような取り付けの適当な室内設備が共振してビリビリと鳴ってしまう。防振対策は必須だろう(めんどくさいが、いつかはちゃんとやるつもり)。
これとかずっと部屋がビリビリいう。
命の危険を感じた。

クリック感のあるボリュームノブがよい

305Pと310Sのどちらもボリュームノブにクリック感のあるものを採用している。iLoud Micro MonitorはそもそもボリュームコントロールがR側にしかついていないから、ボリュームノブにクリック感がなくてもさほど困らないが、1本ごとにボリュームを調整できる305Pの場合、クリック感がないと音量調整がかなりシビアになるためこういう仕様は非常にありがたい。
また調整できる段階が割と細かいのもGood。数年前にRokitの古いモニタースピーカーをもっていたのだが、そちらは大雑把な段階でしか調整できなかったため、ちょっとした調整が面倒な印象があった(インターフェイス側で調整すればいいのだが)。

HF Trim、Boundary EQ

305PにはハイシェルフとローシェルフのEQが搭載されている。自分の環境だととくに使う必要性は感じなかった。
数値的にも、体感的にも、割とさりげなく効くような印象。壁の間近に設置するような場合、-3db程度下げたところでどうにもならない気がするが、まあ、ないよりはまし。

iLoud Micro Monitorとの比較

別物過ぎて比較しにくいのだが、iLoud Micro Monitorは305Pと比べるとカーステのような鳴り方をしているように聴こえる。
カーステのウーファーはあえて車体を響かせることでローを強調しているが、サイズの割にローが出ると評判のiLoudも大体そんな感じである。カーステよろしく、箱を響かせることでローを補っているがゆえに、シャキシャキと鳴るハイに対して、ローは薄くリバーブがかかっているような鳴り方である。
また上述したようにiLoud Micro Monitorに比べて305Pは音像定位を非常に捉えやすい。近年の録音物は立体的な音像定位の表現にこだわったものが多いため、この点は圧倒的なアドバンテージであると思う。
ただ、iLoud Micro Monitorが全然ダメ、ということはない。いい意味でキャラ分けがはっきりしているため、UR28Mでスイッチしながら聴き比べてると、本格的なレコーディングスタジオで、メインモニターとニアフィールドモニターを切り替えながら、ラフミックスの音源を聴かせてもらっているような感覚に浸れる。
理想的な音は305P&310Sとヘッドフォンで作りつつ、一般的な家庭ではどう鳴るんだろうか、というチェックでiLoud Micro Monitorを使うとちょうどいいんじゃないだろうか。
モニターを新調したらiLoud Micro Monitorは手放すつもりだったが、これはこれで面白いスピーカーなんだな、と認識を改めたので、サブ的に卓上に転がしておくことにした。

おまけ(というかこぼれ話):SPINORAMAを見てスピーカーを決めたことについての言い訳

自分はオカルトチックなオーディオ話には興味ないのはもちろん、業界で使われているようなスピーカーに対しても「ルームアコースティック次第じゃない?」とか思ってしまい、とにかくコスパへ逃げてしまう性がある。
そういう性の人間は「科学的らしい」情報に踊らされがちである。今回はSPINORAMAという科学的ではあるかもしれないが、そのスピーカーのすべてを表しているわけではないであろう、胡散臭い図に踊らされることになった。
いや、胡散臭いといってもそこらのオカルトチックな音響与太話ほどは胡散臭くなく、数十年に渡る査読付き研究の蓄積によって結実したれっきとした科学的手法らしいのだが、科学的な訓練をまともに受けてこなかった自分からすると、綿々と改善を積み重ねてきた科学的手法だろうが、オカルトだろうが「わからなさ」は似たようなものである。
似たようなものである、で片付けてしまうと、まるで歴史の営みを足蹴にしているような話になってしまうのでアレなのだが、それが正しいのか正しくないのかよくわからないものの、何かそこに権威や強い企図を感じざるを得ないとき、人は「胡散臭い」という思いを抱くものだ。今、胡散臭いと表現したときの胡散臭さとはそういうニュアンスでの胡散臭さである。
おそらくスピーカーの名前とかでググってこの記事にたどり着いた人の大半も、自分と同じようにSPINORAMAという手法には何か身構えざるを得ない「わからなさ」があると思う。だから胡散臭いという思いを存分に抱いたまま、SPINORAMAと向き合ったり無視したりすればいいのだと思う。ちゃんと科学的な訓練を受けている人はちゃんと査読論文を読みましょう。
ところで、こういった科学的な手法をお手軽に援用してスピーカーの購入判断を行うことは、音楽家にとって色々と問題含みな行為だ。音楽家は科学者ではいられない。徹底した合理的・論理的な思考からの溢れ/ひび割れ/ズレ/反転/余韻の只中に住まうこと。それは音楽家という存在に課された仕事である(と思っている)。音楽家は科学者になれるが、音楽家としての人格と科学者としての人格が真に統合されることはおそらくない。それらは個人の多層を織り成すだけである――という話は別の機会にしてみたい。
実際には1枚やそこらの図でそのスピーカーの実力がわかるわけもなく、音響システムの評価方法については古くから様々な方法が提案されている(手軽に読めるのはこれとかこれとか)。SPINORAMAの欠点も方々で指摘されている。
そもそも、個人的、社会的な問題を抜きに音響について語れるわけはないのだが、現代では、それでもなお、客観的な評価方法が求められているのである。それはオカルトチックな言説への対抗的言説なのかもしれないが、しかし、音楽家の場合は、多少共有されにくい言説でも、それにしがみついて音響を捉えようという努力をしておきたいものである。
なお、海外ではAudio Science Reviewのようなフォーラムを中心にSPINORAMAが圧倒的な信頼を勝ち得ている模様。南無三。